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なぜチェンジリーダーが育たないのか

■失われた20年とチェンジリーダーの減少

 IT導入プロジェクトにおいて、その成否を分かつ大きな要因のひとつに「チェンジ・リーダの存在」がある。しかしこの20年近くは、欧米流のマネジメント手法に基づいて数字(成果評価,キャッシュフロー,etc.)を追い続け人材育成をおろそかにしてきた結果、驚くほどチェンジリーダーという人材が減少している。

 チェンジリーダーとは、IT導入プロジェクトにおいて、情報システムと業務プロセスの変革の中核となって、プロジェクトの目標を達成し成功に導くキーマンである。その立場は、情報システム(IT)部門であっても、実務部門であっても良いが、外部のITベンダーではなく導入企業側に存在すべきであろう。

 では、企業がそういった人材の必要性を感じていないわけでもなく、また企業によってはそれなりの予算を確保して手厚い人材教育を実施しているにもかかわらず、本当に意味での「チェンジリーダー」が育っていないのはなぜか?

■チェンジリーダーが育っていない具体例

「チェンジリーダー」が育っていない要因を導き出すために、私が関与したIT導入プロジェクトの現場で発生した事実を例示する。まずは、実務部門での事例である。

1)SCM/サプライチェーン・マネジメント・システム導入プロジェクト
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 サプライチェーン・マネジメント(以下、SCM)システムの導入では、組織や会社の枠を超えた「情報共有」がIT面での中核となる。また、共有した情報に基づいて業務プロセス(ビジネスモデル)を変えてしまうようなケースもある。こういったSCM導入プロジェクトのチェンジ・リーダーには、複数の組織や企業の枠超えた「調整能力」と、その利害関係者の意識を変えさせる「ビジョン」、そしてプロジェクトを計画し推進する「実行力」が求められる。

 G社では、実務部門の幹部社員(N氏)をリーダーとするSCM導入プロジェクトを組織した。N氏は、これまでにも部門システムの構築ではリーダを経験したことがあった。IT部門の経験は無いが、部門におけるシステム化要件をとりまとめ、ベンダーに発注して予定どおりにシステムを稼動させたことがあり、必然的にN氏をリーダーとするSCM導入プロジェクトがスタートした。

 ところが、SCM導入プロジェクトが始まってみると、N氏が立てたスケジュールがことごとく遅延して再スケジューリングを繰り返し、またプロジェクトに参画しているメンバーからもクレームが続出する事態となった。それは、N氏が自分一人で考えた机上論(理想的なプラン)でプロジェクトを進めようとしたためであった。 SCM導入プロジェクトでは、作業効率の向上といったファクターよりも、GIVE&TAKEでの情報提供とその活用がメインであり、G社プロジェクトでも組織間の利害調整がプロジェクト成否の重要ポイントであった。当然、N氏に対してそのことは事前に認識をさせており、プロジェクト途中でも何度も確認をしていたいたが、机上論が中心で他部門に対しても高圧的な対応をとるなど、自らの「行動を変える」ことができなかった。

2)基幹システム再構築プロジェクト
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 次は、IT部門での事例である。

 T社では基幹システムの再構築プロジェクトを企画し、外部コンサルタントが参画した「新業務システム基本計画の立案策定」を終え、具体的なシステム要件分析設計に着手した。分析設計のプロジェクトは、第一次開発の対象とするサブシステム毎に複数のITベンダーと、対応する社内IT部門の担当者で組織し、プロジェクト・リーダーは、T社のM氏が担当することとになった。 M氏は、入社以来18年IT部門に所属するベテラン社員である。今回の開発範囲はM氏の担当してきた分野ではなく他部門から転籍してきたばかりではあったが、人事上も幹部社員一歩手前の評価をうけており、M氏にとってもこのプロジェクトはキャリアの面からも重要なテーマであった。

 しかし、プロジェクトが発足して具体的な分析設計作業が始まってみると、M氏のプロジェクト・マネジメントスキルの無さが露見した。チームセションの開始時刻になってもセションが始まらない。来週のセション予定が見えない。プロジェクト課題が整理されていない。プロジェクトメンバーで情報が共有されない。問い合わせに対するレスポンスが遅い、あるいは無い。等など、たとえPMPの資格はなくても、プロマネの立場であれば果たすべき役割が果たせない。当然、ITベンダーからだけでなく社内メンバーからもクレームが上がり、プロジェクトが崩壊の危機に陥いる事態になった。

 M氏はこれまで、手厚い社内教育メニューにしたがって、数々の講習会に参加してどれも好成績で修了している。プロジェクト・マネジメントについても、PMP受験対策講座やコミュニケーション,ファシリテーションといったテクニックだけではなく、担当分野での実務を通じた経験も有しているはずである。しかしそれは、自分が得意とする限られた範囲のみでしか機能しないのである。 また、基幹システムの再構築においてもSCMの導入と同様、単に作業の効率化だけでなく、BPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)も含まれ、利害の対立する実務部門間の調整も求められる。

 M氏は、自身が知らない分野で、そして初対面となるメンバー構成の中で、プロマネとしてどう振舞うべきかを体得してはいなかったのである。あるいは、頭では理解できていても行動することができないのである。

■「チェンジ・リーダー」が育たない原因

 2つの事例に共通していることは「行動が変えられない」ことである。頭では理解した(つもり)であっても、実際にどうやって行動したら良いのかが判らないのである。つまり、様々な書籍や講習会を通じて、知識としては習得しており、本人も習得したつもりになっている。そして、習得した知識は実践の中で試してみて調整を加えながら体得していくことは、広く一般的に当たり前のプロセスである。

 そう、その「当たり前のこと」が「当たり前に出来ない」ことが問題なのである。

 こういった場合、「行動が判らない」のであれば「行動のやり方を指導(個々に指示)」すれば良いというものではない。本質を理解していない(理解できない)状態のまま個々に指示しても、指示されたことに従う(従おうとする)だけであって、行動そのものには何も変化があらわれない。プロジェクトでは様々な案件が連鎖的にかつ同時並行で進行していく。その内の一つを指示に従って行動したとしても、次々と迫ってくる案件をサバいていくことは不可能である。

 では、なぜ本質が掴めないのか?
 それは、従来は「当たり前」であった「人を育てる」ことを怠ってきたことに他ならない。

 ここ数年、製造現場での熟練工の技能が見直されており、従来は徒弟関係の中で継承してきた技能をITで継承するようなことも始まってはいるが、その基本は「人と人とのつながり」であることには変わりない。これはIT導入の現場でも全く同じである。

 失われた20年の間も、企業内では人材育成の重要性は十分に認識されており、キャリア形成プログラム(CAP)制度を導入した企業も少なくない。しかし、その教育内容は「講習会受講」やe-Learning/CBTといった「知識学習」が中心であった。一方で、本質的な人材育成実践の場であるはずの「現場」では、数字(納期,売上,成果,キッシュ,etc.)が最優先され、現場で人材を教育するというミッションが希薄化(消滅)してしまっているのである。つまり「教育は人事部門」のように「他人任せ」にして、「現場での人材育成」を放棄しているのである。

 これは、現場を預かっている管理者あるいはマネージャーの怠慢である。
 また、そういった管理者やマネージャーを放置してきた経営者の怠慢である。

 今、あたなの会社ではどうでしょうか?
 現場で人材(人財)を育成していますか?

■どうやってチェンジリーダーを育成するのか

 チェンジ・リーダーの素養として、不確実で不揃いな情報から、仮説(シナリオ)をたてて情報を収集し、その仮説を検証するスキル(仮説検証)が求められる。常日頃から情報収集のアンテナを高くし、社内外の様々な情報や潮流をウォッチすると同時にコミュニケーションをとっている必要があるが、そういった行動は本人の意識(問題意識,危機意識,当事者意識)から生まれてくるものである。

 では、どうすればそういった意識付けができるのか?

 まず、経営者や管理者/マネージャー自身が、その意識を持たなければならない。 あるいは、経営者や管理者/マネージャー自身が、そういった行動を起こさなければならない。 つまり、チェンジ・リーダーに求める行動を自らも実行することである。
 であるとするならば、経営者の行動はまさにその実践であるといえる。 経営者=チェンジ・リーダー(オーナー)である。ここで問題となるのは管理者/マネージャーであろう。

 前述の事例でも真因はそこにあった。
 N氏の場合、実務部門の立場でありながら現場での実務経験がほとんどない。入社以来、いくつかの部門を経験してはいるが、その業務を自らが責任を持って遂行することがなかった。たとえあったとしても、それは極限られた範囲に止まっていた。ただ、理論的なアプローチが出来るという面が、部門情報システムの開発や改善には有効であったため、N氏のマネージャーは彼を安住させてしまったのである。
 M氏の場合には、入社以来18年、限られた範囲での業務に携わったきたこと。その中で、意識のあるマネージャーとの出会いが無かったことであろう。ただ、M氏自身には問題意識はあったが、結果的に前職の管理者との対立から生じた精神面でのキズを引きずっていることも判明した。

 ここ数年、心の病(風邪)である「うつ患者」が急増しており、メンタルヘルスケアが声高らかに叫ばれている。たしかに社会現象として由々しき事態であるが、スキルをアップさせるためには、プレッシャーが必要である。プレッシャーの無い仕事では人は育たない。しかし、プレッシャーが大きすぎると押し潰されてしまう。また、何か行き違いで『心が折れる』こともある。心が折れてしまうと、そのパワーは後ろ向きに流れていく。

 だからこそ「現場教育」が必要なのである。
 現場から遠く離れたオフィスの会議室ではない。ましてや電話やメールでは決してない。

  • 現場でのクロスコミュニケーション(重なり合う)
  • 知と知、知と情、知と技といったクロスファンクショナルなナレッジ

 それは、場当たり的な「OJT(On the Job Training)」ではなく「意識のある現場教育」である。徒弟制度の中で当たり前に伝承されてきた技能であり『共育(共に育つ)』である。

■時間がかかる。だからこそ今すぐ着手!

 以上のように、チェンジリーダーが育たない真因とその対策を考えてきた。

 IT導入プロジェクトの成否は「チェンジ・リーダー」の存在如何にかかっているともいえる。 しかし、対策を講じれば即座に「チェンジ・リーダー」が育成できるわけではないことは明白である。 中には、ちょっとしたキッカケで瞬間に「チェンジ・リーダー」となる人材もあるが、概ね長い歳月が必要になってくる。しかも、それを企業文化(DNA)としての継続がなければ成立しない。

 企業の経営者にとっては、今さら「中長期的な人材育成を・・・」といわれても、今まさに直面しているプロジェクトを何とかしないわけにはいかない。人材が育つまで待っているわけにもいかないので、外部の人材を活用することになるが、そこにITコーディネータという切り札がある。

 ITコーディネータは中立的な立場であり、そのスキルと経験次第では「チェンジ・リーダー」となりうる人材像である。また、ITCプロセスの中では人材育成計画も含まれており、中長期的な人材育成計画の立案を支援することができる。

 ただ、やはり本来は社内にそういった人材は不可欠である。
 人材育成には膨大な時間が必要になる。

 だからこそ今すぐ着手!
 人材育成計画の立案に際しては、様々な教育カリキュラムとともに、
 現場教育(共育)をぜひ取り入れてもらいたい。

(ITコーディネ-タ/植松栄介)

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