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「検証ユニット方式」の実践によるITC収益モデル例・2

──専門家派遣制度を活用した成功事例──

<はじめに>
 独立したばかりで実績がほぼ皆無に等しいITCが、何の信用もない状態で、企業と顧問契約を結ぶに至るプロセスにおいて、われわれ“まいどフォーラム”が提唱する「検証ユニット方式」がいかに役立つか、その実践的手法について前回の論文で考察した。
 今回は、「検証ユニット方式」の実践にあたって、その第1回転めに専門家派遣制度(各都道府県に設置された中小企業支援センター等が実施する助成事業)を活用し、より潤滑に契約獲得に結びついた事例を紹介したい。
 前回同様、仕事の発端はささいなキッカケである。本事例(B社とする)は、新米ITCのY氏が、個人的な友人のWさんからB社の専務を紹介され、「とりあえず話しだけは聞いてやってもいい」という程度の了解で会社訪問することができたのであった。

<1回転めの留意点>
 検証ユニット方式では、「はじめに成果ありき」が原則で、第1回転めにできるだけクライアント企業にコストの負担をかけないことが重要である。これは相手先がITCがについて何も知らず、まったく信用がないという前提に立っている。実際、B社の社長も専務も、Y氏とは初対面であり、経歴や実績等についても詳しく知らされず、明らかに怪訝そうな顔つきで最初の訪問を迎え入れたのである。
 Y氏は、ひととおり自らの強みや仕事の進め方を説明したが、IT化の説明にはどうしても専門用語が多く混じりがちで、それが中小零細企業から毛嫌いされる原因になることも理解している。そこで、あまりITをITとして意識させず、とにかく「公的な制度であること」や「県から補助金が出ること」、「要するに制度を活用すると得だ」ということを強調し、制度の活用を薦めることにしたのである。
 中小零細企業の場合、ITに対してそもそも理解が追いつかない面があるのは事実であろう。1回の訪問で、IT化のメリットを実感してもらうのは困難といえる。かといって、不安心理につけこんで「おたくは遅れてますよ、ヤバいですよ」という論調は厳に慎まねばならない。その点、専門家派遣のような公的制度の場合、中味が理解されていなくても信用されやすいのは事実である。それには甘えさせてもらってよいであろう。専門家派遣制度は、企業側の費用負担が軽い割に回数や時間がきっちりと定められていて、いったん了解されると少なくとも3?5回は会社を訪問して経営陣や担当者と十分なコミュニケーションを図れるというメリットがある。企業の負担より県の補助金のほうが大きいため、コストがかかったという意識はまったくないに等しく、Y氏がよっぽど退屈でないかぎり「なんか得した」という印象が残るはずである。だからこのフェーズでは、3?5回の訪問のあいだに「もっとつきあえば、もっと得なんだ」という確信を相手に与えられるかどうかが重要となる。そのためにも、「お金をかけずに手っとり早く改善できる工程はどこか?」を見つけ出し、派遣終了後に取り組んでみたくなるような具体的な提案を出せることが不可欠といえる。

<1回転めの検証>
 検証ユニットの第1回転めでは通例、「はじめに成果ありき」の原則に基づいて、ITCにもある程度「汗をかく」ことが求められる。しかし、専門家派遣制度は純粋な助言事業であるから、専門家自身が自ら「手出し」をしてデータベースを設計したり、ホームページをデザインしたりということはしない。したがって、専門家派遣制度による助言活動を第1回転めとした場合、机上の空論が先行してしまう恐れがあると言わざるを得なくなる。そこでY氏は、「即効性があって明らかに目に見える成果」は何かと考え、キーボードショートカットを使って入力速度を上げさせたり、フロッピーディスクの使用を禁止してLAN上でファイル共有を学ばざせたり、プロバイダを低価格なところに乗り換えて通信費を節約したりといった実践型のアドバイスも忘れなかった。わずかとはいえ、それでも月額換算で1万円程度の費用が浮いたのである。さらに一方で、助言活動の成果物として、現状の基幹システムの非効率を指摘し、事務員4名の人件費の無駄が月額換算で合計10万円を超えるという実証データを経営者に伝えた。

<2回転めの留意点>
 Y氏は、現行のシステムが導入から6年を経過していることや、ソフトを開発したベンダーが倒産してサポートを受けられない状態であること、業務の流れにシステムが合わなくなり、必然的に数々の弊害を生んでいることなどから全面リプレースを急ぐ必要があることを痛感していた。さいわい、助言活動を通じて社長や社員にもシステムの弊害が理解されている様子であった。
 B社は、文房具を中心とする事務用品を扱う卸問屋で、従業員は12名。うち4名が女性の事務員であった。事務員は、商品の梱包や棚卸しなどの業務も行うが、一日の大半はパソコンに向かってデータ処理に費やしている。業種特性として、他品種で小ロット、商品単価が低いがデータ数は大量であるため、データ入力業務の負荷が非常に高く、システムの不具合によって被るロスは非常に大きかった。
 専門家派遣制度を利用すると、企業の負担する金額の3倍の報酬がITCに入ることになるので、その間は“成果>コスト”の実現は容易である。1回転めが終わった段階で得られた「小さな信用と小さな報酬」をテコに明確な課題を経営者に示すことができていれば、次に訪問する名目はとりあえず得られる。
 ここではシステムの全面リプレースという大型の提案を掲げて第2回転めに入るわけであるが、今回のケースでは、この第2回転めが事実上の1回転めだと考えなければならない。すなわち、まだ目に見える形での成果が乏しいために、提案にも説得力が乏しいのである。Y氏には、リプレースを実行すれば相当の効率化ができるという確信もあったが、性急にそれを進めたのでは従業員の意識が追いつかないことも明白であった。

<2回転めの検証>
 そこでY氏は、後に販売管理システムとも連動することになる見積書作成システムを先行して導入することとし、その間のシステム費用(開発費まで含む)は自らが肩代わりして無償とすることにした。従来は見積書作成システムは存在せず、毎日のように営業マンがワープロソフトを使って各自で作成していたため、B社にとっては「うまくいったら儲けもの、うまくいかなくても損はしない」という筋書きである。無論、導入過程でのY氏のコンサルティング・フィーも無償である。
 それだけのリスクを背負ってでも実現したかったY氏の狙いは、男性営業マンたちが新しいシステムで効率よく見積書を作成している真横で、女性事務員たちが従来のシステムで納品書発行に悪戦苦闘しているという対比を、全社員に「見せつける」ことであった。見積書を作成するために使用する品名マスターは販売管理で使用するものと同じであるし、入力手順もほとんど同じである。「これができたらあれもできる」式にB社を納得させることを狙ったのである。
 見積書発行システムは、従来のシステムから商品マスターを移行する作業に手間取り、着手からサービスインまでに2ヶ月、そこから営業マンを教育し、軌道に乗せるまでに3ヶ月を要した。しかし、いったん慣れてしまうと、6年前に導入された従来システムと比べてレスポンスが格段に速く、効率の差は歴然としていたために、「早く販売管理のほうも新しいシステムに替えてほしい」という声が事務員さんたちから上がるまでに、さほど時間はかからなかったのである。

<3回転めの留意点>
 Y氏が最初にB社を訪問してから8ヶ月、Y氏の訪問回数は20回を超えていたが、Y氏はB社に対して直接費用を請求したことは1度もなかった。しかし検証ユニットの3回転めには、IT化は企業の中枢的な基幹業務に及んでくる。経営トップの業務改善にかける意気込みを確認する意味でも、基幹システム構築に必要な予算組みを行い、さらに自分の貢献度に見合う報酬を正当に要求していくことが肝要となるのである。
 見積書作成システムを実際に動かしていれば、その仕組みを販売管理全般に応用したときにどれくらいの効率化が図れるか、それくらいのソロバン勘定は経営者の頭の中にできている。Y氏はそこへさらに、経営戦略策定という新たな着眼点を与え、中期的にはネット上での受注システムとも連動する営業支援ツールとして活用していくのだというビジョンを示した。
 このフェーズでは、これから後にも常に“成果>コスト”が成り立ち続けることをアピールすることが大切である。IT化とはすなわちITを企業文化として熟成して根づかせていくことであり、外部CIOとしてのITCが抜けたらその戦略構想全体が骨抜きになってしまうというくらいの存在感を示す必要がある。少々「脅し」気味になってもかまうことはない。ここでいかに自己の役割を大きく見せられるかどうかが、継続的な顧問契約を結べるかどうかの分かれ道になるのであるから、背に腹は代えられないであろう。

<結論>
 小規模事業者は、大企業のように何人もの専門家を雇うことは不可能で、せいぜい1人か2人のインテリジェンスが「よろず相談」の窓口になっているという現状は前回も述べた。フリーで独立することを志すITCは、ITを切り口として、まずこの役割を果たすことが求められるのである。われわれ“まいどフォーラム”は、そこにITCの活躍すべきフィールドがあると考え、そのために極めて有効なツールとして「検証ユニット方式」を提唱するのである。
 結果としてB社では、Y氏が最初に訪問してから11ヶ月後という早さで基幹業務の全面リプレースに成功した。ハードの選定と調達、ネットワークの構築、ソフトの設計と開発、ウェブサイトのリニューアルとマーケティングへの活用‥‥等、ITに関わるあらゆるB社の意思決定がY氏のアレンジメントによって行われ、当然Y氏は、めでたくB社と顧問契約を締結することができたのである。

ITコーディネータ/永田祥造

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