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新しいマーケティングが効かないときは、古いマーケティングを。

インターネット以前の広告業界で育った私としては、業界のすさまじい変化に驚くばかりです。ここ数年は、ウェブ制作やネットマーケティングの手法の習得にそれなりの時間を費やしてきました。IT業界というのは、エスカレーターを逆走するような業界だ、止まっていると置いていかれる・・といった人がありますが、まさにそんな気分ですごした数年間でした。しかし、もう古いマーケティングノウハウは、役にたたないのでしょうか・・? そんなことはないと思います。

ウェブサイトを作っただけで、多くの顧客が訪れ、売り上げアップにつながったということなら、何も苦労はありません。しかし、往々にして「そうではない」ケースに遭遇します。問題は、売り上げが動かなかったとき、どう行動するか。そこでプロとしての力量が求められることになります。

不幸にして(?)、十分な成果が得られなかったいくつかの中小企業のサポートで私が得た気づきについて、反省も含め、以下にまとめてみます。

1.まず、ウェブマーケティングの成否は、顧客との確かな接点を見つけられるかどうか、誰が、どこで、どんなものを求めているのかについての正しい顧客シナリオを描けたかどうか、で決まるということ。

多くの商品は、行き先もはっきり定めないまま見切り発車した列車のようなものです。正しく駅に到達するためには、レールの整備が欠かせません。「製品」としては完成していても、「商品」としては完成していないものが意外に多いのではないでしょうか(というか、ほとんどそうでは?)。誰が、どこで、どんなものを求めているのかという正しいシナリオまで完成して、「商品」は完成します。「りんごは酸っぱいから好き」という顧客に、いくら「りんごの色の美しさ」を訴えても売れないということです。

これは、ウェブの世界に限ったことではなく、従来の印刷媒体の広告活動でも求められてきたことですが、成果が数字で現れやすいウェブマーケティングにおいて、あらためてつきつけられた「古くて新しいテーマ」のように感じます。ネット以前の印刷媒体を中心とした広告制作では、その成果が数字に表れにくいために、顧客シナリオづくりにそれほど実践的なノウハウを築きあげることができませんでした。アクセスは、マスコミ広告(媒体量)で。コンバージョンは、販促ツール(詳細な訴求)で。というのが、従来の住み分け。いわば、空爆と地上戦。マスコミ広告は一撃必殺(確かな成果)を求められることは少なく、販促ツールはその内容によってじゅうたん爆撃(アクセス数)を求められることはありませんでした。

一方、ネット媒体では、確かなシナリオ作りが、ウェブ制作、SEO、キーワード広告といったさまざまな活動の局面で、アクセスとコンバージョンの双方に効力を発揮します。シナリオの弱さをコミュニケーションの量(空爆)でカバーできる大企業とは違い、空爆が使えない中小企業では、さらにその重要性は高く、あまり予算がかけられないにもかかわらず、マーケティングコミュニケーションの内容には、大企業以上に高い品質が求められているのではないでしょうか。

かつて、印刷媒体の仕事で、正しい顧客シナリオの発見によって大きな成果をもたらした経験があります。クライアントの保有していた愛用者カードを頼りに、多くの顧客取材を行うことによって発見した顧客シナリオは、販促ツールからマスコミ広告へと逆流し、さらに他社をまきこんで、業界全体の動きへと進展しました。まさに正しいシナリオの発見が功を奏する事例だったと思います。因果関係の見出しにくいネット以前の状況でも、誰の目にも明らかな成果を確認できた、私にとって重要な成功事例です。

しかし、近年サポートさせていただいたいくつかのウェブマーケティングの事例では、市場分析し、ターゲットを設定し、コミュニケーション戦略を立てて、実行に移した(正しい手順を踏んだ)にもかかわらず、成果の上がる正しいシナリオに到達することができませんでした。振り返って比べてみると、原因はいくつかあるように思います。

2.顧客シナリオを発見するには、顧客との直接の接触が欠かせないということ

実作業にかかわっていると、どうしても考えるだけでことをすませようとし、顧客の近くに行って、ヒントをつかむ努力をするのがおっくうになるものです。こちらが積極的でも、クライアントが面倒がって協力してもらえないことも多いです。かつての成功事例では、多くの顧客に直接取材することで、シナリオ(仮説)の検証をより確実な形で行うことができました。「これだ!」というシナリオを発見したときの興奮は、今でも覚えています。しかし、近年の失敗事例では、公開されている市場環境資料やクライアントの取引先からの情報しか得られないことがほとんどでした。あるケースでは、顧客に直接取材する機会を得ましたが、一般的なケースではないと思われる1サンプルだけで、仮説を検証するには、十分とはいえませんでした。ウェブのアクセス分析は、顧客の反応を確かめる手法のひとつですが、顧客の影を見るようなもので、特に、アクセス数が少ない場合、よほどの洞察力がなければ顧客の実体はつかみにくいのではないでしょうか。正しいシナリオの発見には、顧客の生の声をフィードバックできる機会が欠かせません。

3.顧客シナリオを正しく導くためには、仮説を小さく繰り返して検証できる(PDCAを小さく回せる)方法を検討すること。

顧客からの反応があったかどうか、売れたかどうかという最終的な指標だけでは、検証サイクルが大きくなり、無駄が多くなります。大きな検証サイクルをまわすのは力がいります。力を入れて作業したわりに成果が得られなかったとなると、関与するスタッフのモチベーションにも影響します。答えは、理屈だけで得られるものではありません。「数うちゃあたる(仮説の検証)」をいかに効率化するか。試行錯誤の高速化・低コスト化が求められます。具体案はケースによって異なるでしょうが、クライアントに協力をあおいで、どんな機会を設けることができるかを最初の時点で取り決めておくといいのではないでしょうか。

以上、きわめてアナログな話で恐縮ですが、ITというツールがそれ自体で問題を解決できなかった場合、こうした地道なアプローチが重要になってくるし、現にそういうケースは多いように思います。ウェブを使ったが売れなかった、ネット広告を駆使したが売れなかった、というとき、次の新たな一手を捜す前に、もういちど原点を見直すという姿勢をこれからの仕事では持ちたいと思います。

ITコーディネータ/伊利卓

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