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「検証ユニット方式」の実践によるITC収益モデル例・4

<はじめに>
 これまでの考察で、われわれ“まいどフォーラム”が提唱する「検証ユニット方式」がITCの収益モデルとしていかに有効であるかという3つの具体例を挙げた。
 ここまでは、検証ユニットの初期段階(1回転めから3回転めくらいまで)に比較的重点を置いてきたが、今回は、ユニットが4回転め、あるいは5回転め、すなわちIT化のプロセスが中盤以降にさしかったD社(不動産の有効活用支援)の事例を取り上げてみたい。
 Y氏が関与しているのは、D社の事業の中でも特に有人立体駐車場の管理事業である。業界全体としてもほとんどIT化の顧みられない分野で、せいぜいPOSシステムを導入するくらいしかIT活用の取っかかりはないと思われた。
 D社における検証ユニットの1回転めから3回転めくらいまでの経緯は、これまでの3つの事例とほぼ同じであるので、本事例ではその詳細は省略し、4回転め以降、Y氏の関与を通じて、D社の経営トップがどのようにITを企業文化として深化させていったか、そのプロセスを追うことにする。 

<1回転めから3回転めまでの概要>
 有人立体駐車場では、料金計算やPOSレジをきちんとシステム化しているところは極めて少数派である。平面の駐車場は、無人化することによって人件費節約効果が大きいため、システム化が進んだのであるが、立体駐車場のほうは、安全管理面の事情から「どうせ人が必要なんだから人にやらせたらよい」という発想になっていたのである。
 Y氏は、このシステム化の遅れに注目し、料金計算とPOSレジ機能を一体化したシステムの導入をD社に提案し、その開発過程においてベンダーを指揮し、複数駐車場の顧客(車両)一元管理を軌道に乗せた。2回転めでは、利用者の利便向上に大きく寄与するマイレージポイント制の導入を提案、3回転めにはタイムカードシステムまでを統合した労務管理システムの開発をプロデュースした。そのプロセスがすべて順調に推移したために、D社の経営者は、ITの有効性を高く評価し、さらなる活用方法を自ら模索するまでになったのである。 

<4回転めの留意点>
 検証ユニットも3回転めを終えるころになると、どんな懐疑的な経営者であっても、IT推進者たるITCをかなり評価してくれるようになっている。疑り深ければ疑り深いほど、目の前で実際にやってみせたときの「目から鱗」状態は劇的であるともいえるのである。
 そうすると今度は、特にITCがITの効用について説得しなくても、「ITでもっと他にやれることはないか」と経営者自身が自発的に考える姿勢になってくる。「自律成長過程」とも呼ぶべきフェイズ、ITCにとってはとても仕事がやりやすくなる時期がくるのである。
 経営者は、これまで否定していた「流行りのツール」を、「華美な宣伝文句」に踊らされて、突如としていろいろ試してみたくなったりすることになる。ITCとしては、これはこれで困りものなので、うまいこと手綱を締めてかかる必要が出てくるのである。もちろん、本当に良いツールであれば、経営者といっしょになって積極的に検討すべきなのは言うまでもないが、“まがい物”も多いので要注意である。
 D社で社長が自ら取りかかったのが、ネット経由で動作するPOSレジの拡張機能としてのウェブカメラであった。Y氏はカメラには疎いので、はじめは導入に消極的だったが、D社社長の言うには、駐車場のオーナーは、防犯対策としてのカメラには非常に興味を持つのだということであった。さらにD社社長は、自社の駐車場利用者がネットで一元管理できる強みを活かして、「ある駐車場で月極契約をすると、別の駐車場の時間貸しが無料になる仕組み」を考え出した。事業を営んでいないと思いつかない一種の発明(実際にも特許出願中)といえ、これにはY氏も舌を巻いた。

<4回転めの仮説>
 4回転め(5回転め以降も同様)に入ると、経営トップがすでに納得し、自ら推進するフェイズに入るのであるから、ある意味(経営者からITCとしての手腕を評価していただくという意味)では、検証作業は重要ではなくなる。失敗は失敗として、そこから学び、企業文化としてITが定着しているお手伝いをするのがITCのミッションになってくるという具合に、仕事の中味が変質してくるはずである。利益向上に寄与すればIT化は成功、寄与できなければ失敗という、杓子定規な判断から脱皮しなければならないのである。事実、Y氏が関与して以降、D社の業績は順調に伸びており、もはやY氏自身も、ITの実効性という面での評価は求めることもなかった。
 そこでY氏は、D社社長に、経済産業省の推進事業である「IT経営百選」に応募してみることを勧めた。「これまで積み上げてきた自社のIT文化がいかにすばらしいか、あるいは、どこが欠けているか」に関して、外部の評価を受けてみることを勧めたのである。
 あたりまえのことであるが、単に儲かっているとか儲かっていないとかいう基準では「IT経営百選」には入れない。ITを有効に活用して経営の改善に結びつけているか否かが有識者によってチェックされるのである。もしこれで入賞できたとすれば、D社のIT化は一過性のものではなく、企業に文化として根づいていることが客観的にも裏付けられることになる。この提案はD社社長にも快く受け入れられ、D社の「IT経営百選」応募が決まった。 

<結論>
 もしD社が「百選」から漏れていたら、Y氏の提案してきた数々の仕組みは「儲けにはつながっているけれど、会社の文化としては根づいてない」という評価になったわけである。しかしY氏の確信どおり、D社は、「IT経営百選」において最優秀企業に選ばれ、社名とともに評価項目毎の得点までが全国に公表された。今後のIT化の貴重な指針が得られたと、D社社長も至極ご満悦だったのは想像に難くない。
 このように「検証ユニット」にしたがって、ITCが、ユーザー(企業経営者)の猜疑心を無理なく少しずつほぐすようにIT化を進めていくと、当然の流れとして企業IT化は自律成長過程に入る。またそれを外側から歓迎して支えてくれるようなムードや枠組みも、ちゃんと国が用意してくれているわけである。さすが、“e?Japan”を標榜するだけのことはあると言うべきであろう。
 ITCが、国策としてのIT化推進の流れをしっかりと踏まえ、それに呼応するかたちで、中小企業企業のIT化を進めていくならば、“三方良し”の結果が待っている。「検証ユニット」の初期の段階では、ITCは単なる便利ツールとしてITを企業に伝えてよいのであるが、中盤以降では、経営者のマインドの変化も読みながら、企業文化としてITを根づかせていく意識が欠かせない。本事例はその教訓となる好例であろう。

ITコーディネータ/永田祥造

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