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けちけちIT化のすすめ

はじめに

 日本の中小企業やNPO法人でのITの活用は中堅、大企業にくらべて、大幅に遅れているといわれています。特に、関西では、「IT化の有効性」の認識が関東に比べて低いという調査結果もあります。また、「ITの理解、リテラシ」も中堅、大企業にくらべて低い場合が多いのではないでしょうか。

「ITの理解、リテラシ」の低い組織に「IT化の有効性」の認識をしてもらう最良の方法は、ともかくITを使って、「役に立った=コストが下がった、売り上げが上がった」などと実感してもらうことではないかと思います。

では、ともかくITを使ってみてもらうにはどうしたらいいでしょうか?
ITに限らず、自分の知らないもの、新しいものを買うときには、不安があるものだと思います。
「ITってほんまに役に立つの?」
「パソコンやソフトを導入しても、使いこなせへんのちゃうか?」
こういった不安を乗り越えやすくするための一つの方法は、初期コストをできるだけ下げることではないかと思います。

          「けちけちIT化」とは?

本稿でご紹介する「けちけちIT化」(造語です)は
「ま、使いこなせへんかっても、これくらいならええか!」
といえるレベルの初期投資でスタートできるIT化のアプローチのことです。

とくに、われわれMAIDOフォーラムの活動圏である関西の人は総じて「けち」だといわれています。「怪しいものには金をださない。値切れるものはとことん値切る。」という感じです。
これは、ITCが小規模企業を支援する上で最初のハードルになっている場合も多いのではないでしょうか?

ここでは、このハードルを越える一つのツールとして有効な、「けちけちIT化」のちょっとした実践例をご報告したいと思います。

「けちけちIT化」実践のポイントは以下のようなことではないかと思います。

 ・顧客の実行可能性が最重要
 ・成果は小さくてもいい
 ・まずは、今あるものをつかう
 ・必要最低限の性能でいいので、無料、格安のものを導入
 ・労力、ストレスは最小限に
 ・短期集中

まず、楽に、IT化の成果を実感してもらうことが目的なのです。

        「けちけちIT化」の具体例

以下、あるNPO法人でのIT化を支援した事例の導入部分をご紹介します。

【テーマの選定】
ヒアリングの結果、いくつかテーマがありましたが、NPOの会報誌を発行しているチームの責任者のIT化の意欲が高く、メール(メーリングリスト)を利用するだけで業務効率の向上が見込めたので、これをテーマとしました。

【IT化前】
会報誌の編集は以下のような流れで行われていました。
   原稿を電話、口頭で10人程度に依頼
   手書き、または家のパソコン、ワープロで作成された原稿をFAXや手渡しで回収
   これを、編集チームでFAX、電話でやりとりしたり、会議を何回か開いて編集、チェック
   版下を切り貼りで作成して印刷に出す

【IT化の提案】
この編集作業をメーリングリスト上でやることを提案しました。
具体的には、会報誌のメーリングリストをつくり、そこで原稿をMSWordでやり取りして完成まで持っていくというやり方です。
具体的には、yahooグループという無料のメーリングリストを使いました。メールアドレスをもっていない人にはyahooメールという無料のメールアドレスを、パソコンをもっていない人には、パソコン購入とインターネット接続をしてもらいました。

【IT化後の成果】
この方法をとったことで、これまで、編集中に何回も会議をもって作業していたのがほぼすべて在宅で可能になり、ボランティアの方々の負担か大きく減りました。
また、電話や口頭で連絡がつかないなど、滞りがちだった流れも、メールでの非同期コミュニケーションになることでスムースに進むようになりました。

【その後】
このことで、メールをつかって、仕事をすることのメリットが理解され、他のチームや、プロジェクトでもメーリングリストが利用されるきっかけになりました。
その後のサイクルでは、ホームページ改訂やイントラネット構築へと進んできています。

          「けちけちIT化」の詳細

最初にあげたポイントについて、上記を例に具体的にご説明しようと思います。

【顧客の実行可能性が最重要】
テーマ選択にあたっては、顧客とITCで実際に実行できる、という見通しがあることが必須です。具体的には「やる人=やる気があり、やれる人」がいて、途中に引っかかりそうなハードルをITCがクリアする(または、クリアしてもらう人をつれてくる)手段をもっていないと失敗します。上記事例では、責任者の方がパソコンの利用に非常に意欲的で、過去にMS-Dosのパソコンを使っていたと聞いて、大丈夫だと判断しました。
また、yahooメールやyahooグループについては、私自身他の案件ですでに使ってことがあり、その特徴や操作を把握していました。  

【成果は小さくてもいい】
他にテーマとして、ホームページの改訂や、会員データベースの整備などがあり、こちらの方が、成果としては大きなものが期待できましたが、実現までの期間、必要なリテラシや労力、ソフト購入費などを勘案して、後回しにしました。
最初は、「ITの有効性」を理解してもらうことが目的ですので、まずは、楽に、早く成果がでることが最重要です。

【まずは、今あるものをつかう】
パソコンやソフトの新規購入には大きな金銭的負担がかかるので、所有のハードとソフトについてヒアリングをしました。すでに、チームの数名の方はパソコンで原稿を清書したりしていました。
また、個人的にメールを利用している人もいました。
すでにスキルを持った人がいるということは、支援するITCの労力を考えると非常に重要です。

【必要最低限の性能でいいので、無料、格安のものを導入】
キーメンバーの方はパソコンを持っておらず、購入したいと考えていました。
型落ちの格安のパソコンと中古のディスプレーを代理で購入しました。
メールアドレスや、メーリングリストは無料サービスを利用しました。
こういったとき、気をつけることは顧客の予算は最大限に利用することです。
たとえば、パソコンに10万だす気があれば、5万で本体を調達し、プリンタ、ADSL、Officeソフトまで購入してしまうことです。決して、5万でできますよ。と本体だけ購入すべきではないと思います。

【顧客の労力、ストレスは最小限に】
パソコンの初期設定や、インターネットの契約、メールやメーリングリストの登録などは、ITCが代行しました。
設定や登録は1回限りなので、初心者の方の支援の場合は最初はスキップする方がいいと思います。
こういった作業は、ITCが代行すれば短時間で終わりますが、そうしないと、そこでくじけてしまうことが多いからです。
必須スキルとして、MSWordでの作成とメールに添付して送る方法、開く方法のみに絞ってマスターしてもらいました。

【短期集中】
人間のやる気は時間の経過とともにどんどんなえてきてしまうのが普通ではないでしょうか?
そのためにはITCの労力は最初に短期集中で投下すること、短期に完了するための段取りと必要にせまられるような開始タイミングを選ぶといったことが重要だと思います。
上記事例では、パソコンの購入、設定やメーリングリストの開設もできるだけ急ぎ、キーになる方には半日対面でMSワードやメールの使い方をサポートしました。また、メールアドレスの登録やインターネットプロバイダーとの契約などは、本人と話をしたその場でパソコンに向かい、必要事項を聞きながら手続きを代行したりしました。

               結論

これまでMAIDOフォーラムで研究しきてている「検証ユニット方式」とは、まず最初に実行し、成果をだし、その次に考えて、さらに投資をして、実行し、成果をだすという拡大スパイラル式にIT化をすすめようという考え方だと私は理解しています。
「けちけちIT化」は独立ITCが、「検証ユニット方式」を用いて、小企業やNPOなどの支援をする場合の最初のパターンの一つとして有効ではないかと考えます。
「ITの理解、リテラシ」や「IT化の有効性」の認識の低い組織にいきなり、経営戦略や情報化戦略の話をしても、2・3回の会議、いや講義で、「わからん、やる気なくなった」となるのが落ちです。そういう組織に対しては、今あるものや無料のものを利用して、最小限のお金と労力で、ともかく成果を実感してもらえることが有効です。
まず、「IT化の有効性」を認識してもらい、それをきっかけに「ITの理解、リテラシ」とモチベーションを向上させつつ、成果を出しながらレベルアップしていくことが可能になるからです。

しかし、こういった支援をする場合、ITCは「こうすべき」とわかっているだけでなく、実際に顧客が成果をだせるまでの具体的な手段とスキルをもっていることが必要です。
たとえば、無料や安価に利用できるソフトやサービスの知識と利用スキル、ヒアリング、ファシリテーションや小さなプロジェクト推進のノウハウ、などです。
さらに、コスト負担を抑えるには、アドバイザー制度など公的支援の仕組みの活用も有効でしょう。

これから、そういった分野についても、実践ノウハウのご報告ができればと考えています。

                         ITコーディネータ/布 俊晴

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