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「検証ユニット方式」の実践によるITC収益モデル例・5

──訴求ポイントを誤った要注意事例──
<はじめに>
これまで4回にわたり、われわれ“まいどフォーラム”が提唱する「検証ユニット方式」がITコーディネータの収益確保に結びついている例を見てきた。
 今回は、やや視点を変えて、「検証ユニット方式」運用におけるネガティブな側面に焦点を当て、案件がうまく進まなかった例を取り上げてみたい。
 本事例(E社とする)は、新米ITコーディネータのW氏が、ある人の紹介で、E社を訪問したところから始まる。
 W氏は、“まいどフォーラム”のホームページを読んだり、メンバーからの聞きかじりで、「検証ユニット方式」の概要については理解していた。というか、理解しているつもりだった。現実には、アピールすべきポイントをはきちがえていたために、クライアントにも誤解を与えてしまい、人間関係がぎくしゃくする結果となってしまった。
<1回転めの留意点>
 すでに何度も述べてきたように、検証ユニット方式では「はじめに成果ありき」が原則である。第1回転めに、クライアントは「なきに等しい投資リスク」を負担し、ITコーディネータから「ちょっとした軽い助言指導」を受ける。それでもIT化の初期段階では、長年積もった悪い習慣が断ち切られるおかげで、意外と大きな成果(無駄の解消)が出やすい。そこをPRするのが肝心である。つまり、いかに自己の消耗を抑えながら、相手にとっての最大メリットを引き出すかが成否の分かれ目といえるのである。
 W氏にかぎらず、ここの部分をまちがって解釈してしまうITコーディネータが少なくないと思われる。「最小の投資で最大の効果」という箇所を曲解してしまうと、ボランティアでもしないといけないような錯覚に陥り、「とにかく安い、安い」ばかりをアピールすることになり、けっきょく自分のスキルを安売りすることになってしまうのである。これはコンサルタント業に限ったことではないが、「売りやすくするために料金を下げる」というのは実に危険な選択であることを肝に銘じておかなければならない。
 「できるだけ相手にお金をかけさせるべきではない」というのは当然の心構えなのだが、いつでも「少なければ少ないほどよい」わけではない。「かかったコスト以上の成果」が出ているならば、成果に見合うだけの報酬はいただいたほうがよい。仕事はどこまでも仕事であって、ボランティアではないのである。
<1回転めの検証>
 W氏は、最初の1回めの訪問時にすでに、社内のホームページ運営などに関していくつもの重要な気づきがあったため、順を追って丁寧に改善のポイントを助言していった。例えばE社は、ホームページ制作を委託した会社に「SEO対策費」という名目で毎月数万円の費用を支払い続けていたのだが、W氏が被リンク状況やキーワード設置などについて調べたところ、特に何も対策らしきものが見当たらなかった。どう考えても「継続的な支払いを打ち切るか成功報酬に切り替えるべき」というのが妥当な選択肢だった。
 E社の社長は、W氏のアドバイスを素直に受け入れ、毎月数万円のSEO対策費を打ち切った。それだけで年間数十万円のお金が節約になった。社長は喜んでW氏にSEOを任せることにした。W氏の意識としてはSEOはお金がかけなくてもできるもので、ちょっとした根気があれば成果が出る(表示順位が上がる)ものだった。あまりに簡単な助言だったため、報酬もなにもなく、第一回めの訪問は終わった。
 W氏のテコ入れによって、E社の検索サイト表示順位は少しずつ上がっていったのだが、問題はこの先で、実はE社社長は、「SEO」の意味もよくわかっていなかった。「ヤフー」とか「グーグル」という検索サイトの存在価値もわからなければ、上位表示の意義もわからない。事実、検索順位が多少上がったからといって、それだけで会社に対する問い合わせが増えるような魅力的なコンテンツに肝心のホームページがなってなかったのである。
 社長はW氏になんとなく感謝しているし、現実に会社の経費は年間数十万円も浮いている。けれど、ITでもっと大きな経営改善に貢献したいと考えているW氏は、「SEOを徹底すれば、お金をかけずに(ただで)ホームページが営業してくれる」と社長に説明をしてしまった。この言い方が致命傷だったのである。実際には検証ユニットの第1回転めで数十万円のコストカットが実現しているのに、その成果を帳消しにする言い方をしてしまった。帳消しにするだけならまだしも、ただで営業させると期待させたホームページが期待どおりに働かず、かえって失望させてしまったのである。
<検証ユニットのあるべき姿>
 では、W氏が墓穴を掘ってしまった原因はどこにあるのか。それを整理してみよう。まず検証ユニットの第1回転めには、「客観的にもパッと見てわかりやすい、しかも実感として感じられるくらいスッキリした成果」を出すことが求められる。相手はITのことがよくわからない素人だからである。
 ゆえに例えば、SEO対策費をカットして浮いたお金をそのままホームページ更新料として然るべきデザイン会社への支払に回したらどうだったであろうか。「同じ費用で、ホームページが毎月どんどん新しくなって、1年後には営業効果が出る」という仮説を示していたら‥‥である。それだと、ITコーディネータ自身がイニシアチブを取って、ホームページのコンテンツを改善するための指示をデザイン会社に出すことができる。デザインが変わるのであればITの素人でもパッとみてちがいがわかる。お金をかけないSEOと組み合わせれば、たとえわずかでも問い合わせがくるようにできたはずなのである。その「問い合わせ」を、自身が生み出した成果として認めてもらい、たとえ幾ばくかでも報酬を払ってもらえるよう、あらかじめ経営者とのあいだで詰めておくべきであった。
 経営者は、すでに発生している固定費については覚悟ができているわけだから、それをタダにするというだけの成果よりも、同じ経費で明らかな改善を見せたほうがよいのは自明である。そして、たとえ額は小さくても、成果と報酬がリンクしていることを印象づける意味の請求を、できるだけ早めに起こしたほうがよいであろう。クライアントには「払う習慣」、自分自身には「いただく習慣」をつけていくことが──特にかけだしのころは──肝要である。

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