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「検証ユニット方式」の実践によるITC収益モデル例

<はじめに>
ここでは、独立したばかりで実績がほぼ皆無に等しいITCであるという前提で、すなわち名前が売れているわけではなくブランド 力もない、つまりITCという資格がある以外には何の信用もない状態で、企業に入りこんで契約を取っていくためにはどうすればよいか、その過程で、われわ れ“まいどフォーラム”が提唱する「検証ユニット方式」がいかに役立つか、その実践的手法を考えてみたい。
個人で活躍する多くの独立系ITCに とって、仕事はほんのささいなキッカケから始まる。友人の勤め先、親戚のコネ、前に努めていた会社の取引先‥‥等、である。本事例(A社とする)は、新米 ITCのY氏が、某異業種交流会でA社の社長と名刺交換をしたところから始まる。2度、3度と顔を合わせて世間話をしているうちに、「ちょっとウチのシス テムを見てほしい」という話題になり、とりあえず会社訪問することができる運びになった。

<1回転めの留意点>
検証ユニット方式では、「はじめに成果ありき」が鉄則で、第1回転めにできるだけ相手にお金を使わせないことが特に重要となる。つまり、「お金をかけずに手っとり早く改善できる工程はどこか?」に神経を集中すればよいことになる。
とりあえず「ただ働き」の覚悟が必要で、実際に「骨折り損のくたびれ儲け」に終わることもないとは言えない。しかし、もともと情報が入りにくい小規模事業 者の場合、「ちょっとここを直せばすぐに経費削減(または売上アップ)に直結するポイント」というのは案外簡単に見つかるのである。
A社の場合 は、ネットによる通販がまったく活かされていないことであった。A社は、自社ブランドで海産物を製造加工販売しており、業者向けの卸と個人顧客向けの小売 が半々の中堅企業である。地場では知名度もあってローカルなブランドとしては一定の地位にある。A社は過去に、大手のショッピングモールに出店したことも あるし、ホームページも相当な金額で開設している。ただ、時期が早すぎたことも災いして、コストばかりが大きくて成果が伴わなかったのである。
このように過去にやけどをしている会社の場合、そこへ「あといくらかけて‥‥」と言い出したのでは即座に門前払いとなる。しかし逆に、「ITは金がかか る」という先入観があるだけに、1円もかけずに先に喜ばせて差しあげる手段がひとつでも浮かべば前途は明るいのである。Y氏の第一印象は、「うまくやれば もっと売れるのに‥‥。ああ、もったいない」というものであった。ネット販売で成功するための必須条件である「オンリーワン」をすでに満たしていたからで ある。
そこでまずY氏の最初の提案は、報酬を歩合制とすることであった。現に売上が上がっておらず、経費がかかっているのなら、「売上が上がら なければお金はいらない」という単刀直入な提案は受け入れられやすい。現状の売上が5、経費が10であれば、損失は5である。小学生でもわかる単純な計算 だが、A社の経営者には撤退の意思はなく、なすすべもなく損失を出し続けている。ここへ、経費を10のまま、売上を5以上に上げる提案を出せば、まずは断 られないのである。(売上を5のまま経費を5にする提案もできるが、これは得策ではない。)「これならどっちに転んでも損はない」という意識さえ植えつけ ることができれば最初の目的は達成である。
Y氏の第1ミッションは、お金をかけずにネットショップをテコ入れし、売上を伸ばすことである。0円 でショップを構築する方法も考えられたが、実際に採ったのは、すでに垂れ流しになっている経費10を、自分のほうへ回させ、売上5を保証する方法であっ た。「もし売上が下がったら自分が身銭を切ってでも弁済します」と言い切ったのある。ここにリスクがある。リスクはあるが、小規模事業者をターゲットとし て収入を上げていくなら、コンサルティングだけでは厳しいのも事実である。ある程度はプラクティカルなノウハウをもっている必要はあろう。リスクをかぶる だけでなく、汗をかくことも求められる。中小企業の経営者には、そもそもそうでないと相手を信用しないというメンタリティーがあるのだから仕方がない。逆 に、このくらいの自信と熱意がなければ、ゼロからスタートでは活路は見出せないということである。

<1回転めの検証>
Y氏は自らホームページのデザインを手直しした。もともとあるページをそのまま使えるので、大きな負荷ではなかった。 SEO対策を施し、ログ解析用のスクリプトを組み込むなど、アクセスアップの手法としては基本的なものばかりだったが、A社はそれさえも知らなかった。 ホームページの手直しが終わった頃、A社に既存の個人顧客にDMを出してもらうこととした。この際のDMの送料はY氏が負担し、文面もY氏が考えた。つま り、A社は何もしなくてよいわけである。
さいわい、DMを出した直後に売上は急増し、しかも持続した。この期間のY氏の勉強量と実務上の試行錯 誤は相当なものであるが、これらのノウハウは再利用可能な自分のノウハウになるのである。ともかく、これで「このITCに任せたら売上が伸びるかも」とい う仮説をとりあえず検証し終えたことになる。契約によって、売上の15%を自分の取り分とすることができた。これは毎月毎年継続的に受け取れるフィーであ るから、変動はあるもののありがたい収入となる。このお金を再投資して、さらなる売上アップにつなげることもできるし、その他の業務改善に取り組むことも できるのである。

<2回転めの留意点>
さて、ここまでで得られたA社からの「小さな信用と小さな報酬」をテコに、ここから検証ユニットの第2回転めに入 る。このフェーズでは、成果が出ている範囲内でコストを捻出すればリスクがないことを、しっかり説得することができなければならない。経費10で、売上が 10なら、儲けはゼロなのだが、Y氏が来るまではマイナス5だったのであるから、儲けはゼロでも成果はプラス5なのである。プラス5のうちの2や3を再投 資に回したところで、会社にとっては損になっていないという理屈をしっかり納得させることが肝要である。当面の損失を回避できたからといって、そうやすや すと感謝していただけるほど中小企業経営者は甘くないからである。「単なるお人好し」と判断されてしまったら、足下を見られて「はい、ありがとう。さよう なら」で終わる可能性が高い。ゆえに、少なくとも3ヶ月から半年がかりで業務改善と呼べるレベルの経営改革に取り組む意思があるかどうか、そのために多少 のコストを捻出する気構えがあるのかどうか、トップの腹づもりを確認しておく必要が出てくる。
Y氏は、ネットショップの売上アップをテコに、受 注処理の効率化に踏みこむことにした。これまでの受注処理は、電話でもFAXでもメールでも、とにかく受注用の紙(決まった様式もない)に書き写して、そ れをそのまま加工ラインにまわすという原始的なやり方だったからである。少なくともネット受注に関しては、そのまま加工指図書に出力でき、完了と同時に送 り状や納品書に出力できる仕様とし、その後、電話やFAXによる受注をネット受注に合わせるかたちにすれば、失敗する心配がないのでA社の納得性も高まる と考えた。これなら顧客データベースの一元化もできて一石二鳥である。

<2回転めの検証>
受注処理のIT化は、着手から9ヶ月かかったが、たいへん大きな成果が出た。Y氏は、はじめにネット受注をシステム化 し、電話・FAX受注のステップと対比してどれほど効率がいいかをまざまざと見せつけた。この「見せつける」という意識が小規模事業者には重要である。机 上の空論を嫌うメンタリティーがある反面、鼻先にぶら下げられた獲物には俊敏に食いつくからである。いったん見せつけておけば、「この受注処理システムに はだいたい○○円かかりますけど、それ以上の効率化ができるっていうの、わかりますよね?」くらいで通じるものである。
ネット受注をシステム化 するにあたっては、システム開発のための費用がかかり、これはネットショップの売上改善で得られる歩合制の報酬を上まわるため、ここまでのY氏の収支は赤 字であった。しかし、すべての受注処理のシステム化を成功させて得られる報酬を合わせればわずかながら黒字となる。検証ユニットでは、2回転めが終わるま で(期間にして約1年)は、儲けは期待しないほうがよいかもしれない。

<3回転めの留意点>
受注管理が軌道に乗る頃には、A社は、他の業務のIT化を別の業者やコンサルタントに相談しようとは思わなくなって いる。逆にいえば、ここまでのステップで辛抱に辛抱を重ね、信頼関係を築いておくことが極めて重要である。3回転めには、IT化は企業の中枢的な基幹業務 に及んでくるはずだからである。
Y氏は、ここまであえて口にしなかった「経営戦略」であるとか「ビジョン策定」「中長期計画」という小難しい言 葉をようやく使い始める。経営者の側に戦略という意識がなかった間も、Y氏の頭の中には当然、常に将来ビジョンが用意されていたわけであるから、ここで過 去と将来の整合性を語っておけば、さらにY氏の印象は良くなるのである。はじめは聞く耳を持たなかった部課長クラスも、ここまで見せつけられれば、いよい よ本腰を入れて取り組んでくれるものである。
このフェーズでは、これから後にも常に“成果>コスト”が成り立ち続けることをアピールすることが 大切である。「恩を売る」というといやらしく聞こえるかもしれないが、継続的な顧問契約を結びたいのであれば、自分が抜けたら元の木阿弥に戻る危険性を臭 わせておく努力はやっておくべきであろう。その上で、基幹システム構築に必要な予算組みを行い、さらに自分の貢献度に見合う報酬を正当に要求していくこと である。

<結論>
小規模事業者は、大企業のように何人もの専門家を雇うことは不可能で、せいぜい1人か2人のインテリジェンスが「よろず相談」の 窓口になっている。(それさえも見つけられない気の毒な事業者も多い。)フリーで独立することを志すITCは、ITを切り口として、まずこの役割を果たす ことが求められるのではないだろうか。われわれ“まいどフォーラム”は、そこにITCの活躍すべきフィールドがあると考え、そのために極めて有効なツール として「検証ユニット方式」を提唱するのである。
結果としてA社では、Y氏が最初に訪問してから1年半後という早さで基幹業務のシステム化に成功した。その手腕を評価されたY氏は、めでたくA社と顧問契約を締結することができ、システム運用を中心としながら幅広く経営革新の相談を受け続けているのである。

ITコーディネータ/永田祥造

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