新しいシステムを導入する際には、経営陣が、経営にどのような効果やインパクトがあるのかを理解しておくことが必要ですが、実際には経営陣がこうした効果を十分に理解せずにシステム導入が進んで行く場合があります。
情報戦略化企画を立案する場合、経営陣や現場からのヒアリングを通じて現状の課題や要件、つまり現状の不満や改善点を抽出、整理してゆきますが、どうしても目に見えやすい事象や、直近の問題に集中しがちです。そこで、ITコーディネートを行う際、ヒアリングを進めるのに併せて各種課題や改善テーマが経営に及ぼすインパクトを、経営陣がある程度自覚できるような評価軸を用意しておく必要があります。
本論では、課題整理の基準軸を「視座・視点・視野」の3軸で立体的に整理しておくことを推奨し、その使い方や意味を示します。
■視座
ヒアリングを行う際に注意深く聞きわけなければいけないのが、その課題がどの立場から発せられたかということです。経営者であっても現場の視座で語る場合もありますし、中間管理職がトップ経営層の視座で問題提起をする場合があります。このように「立場」にあたるものを、視座と呼んで整理するようにします。具体的にどのような視座でとらえるのかについては、対象企業・組織の性質によって多少アレンジが必要ですが最もオーソドックスなものとして、以下のような3つの視座が挙げられます。
視座 … 誰の立場でものごとを見ているかということ
・経営視座 … 経営目標を達成したい
・業務視座 … 業務を改善・改革したい
・システム視座 … システムを便利にしたい
ITベンダーがヒアリングすると、相手もシステム関係の課題を多く持ち出し、システム視座の話題が多くなってしまいますし、経営コンサルの場合は、経営視座が多くなり、ちっとも具体化しないというケースがあります。
そこで、課題や改善テーマがどの視座に位置するのかを、ヒアリング相手(特に経営層)と一緒に整理してゆくと、その後の展開シナリオをある程度パターン化することができます。
つまり、システム視座の課題は、業務視座、経営視座からかい離した課題も多いので業務視座のフィルターを通し、さらに経営視座のフィルターを通して本当にやるべきことかどうかを確認してゆく必要がある、ということを認識してもらいます。
一方、経営視座の課題は、まずそれを実現するための業務改革(業務視座)の方策にブレークダウンし、さらにシステム上必要な機能が何かを議論(システム視座)するように進めてゆきます。
中間的な業務視座の課題であれば、経営上の成果を吟味しつつ、システムに必要な機能を議論するという方向になります。
戦略情報化企画がなかなか固まらない企業の中には、視座が定まらず、課題が経営層と現場の間を揺れ動いているケースが見受けられます。視座を整理してゆくことにより、どのレイヤのテーマなのかがはっきりわかり、企画を固めることができるようになります。
実は、経営視座のテーマを情報システムで実現する場合は、実現したい経営指標が早いタイミングではっきり固まるので、情報投資効果も大きいのですが、システム視座の課題は、現場の使い勝手や部門に閉じた部分最適に関する課題が多いため、その経営効果や指標設定があやふやになってしまいます。
またシステムに不案内な経営層の場合、現場からの具体的な強い意見は、「これを実現しておかないと現場がついてこない」という不安もあり、優先度が曖昧になってしまいます。
そこで、ヒアリングを開始するまえに経営陣と、視座についての展開シナリオをあらかじめ合意しておくと、投資効果や経営に与えるインパクトの大小をブレずに整理することができ、情報化企画を立案するときにスムーズに進めることができます。
■視点
視点は、視座のような目線の高低ではなく、角度や鋭さになります。つまり、根本的な問題意識や会社の社是・社訓のようなものに設定します。
たとえば「環境・エコロジー」や「内部統制」といった現代的な課題意識から、「お客様本位」「感動を与える姿勢」「共存共栄」といった会社の基本理念に至るまで、3つ程度の視点を定め、戦略情報化企画を立てる際の基準にすることができます。
重要なことは、どの視点にも関連しないような課題というのは、単なる操作性や個人的、局所的、表面的な課題であり、より深く真因を掘り下げてみる必要があります。
特に、経営視座の課題の対策を考える場合、視点による吟味は重要になります。また、システム視座の課題を、経営視座の課題に昇華する際に、設定した視点による吟味が有効になります。
■視野
いわゆるスコープですが、ここではシステム化の範囲ではなく、問題を検討する場合のまなざしをさします。人・モノ・金といった視野も重要ですし、ライバル会社、日本、世界といった空間的広がりも重要です。更には3年後、5年後の状態等を含め時間的な意味も含みます。
現在に立脚した改善案もあれば、将来の変化像をイメージして今やるべきことを考えるアプローチもあります。
現場のIT成熟度を勘案して、システム導入時の従業員の心理等に想いを馳せ、それを課題として捉える事も重要なファクターとなります。
■まとめ
以上、視座、視野、視点の3つの軸から改善テーマを整理してゆくと、議論や解決策が偏らず、バランスのとれたものになります。
ITコーディネータ/太田垣博嗣