まいどフォーラム

ITコーディネータによる中小企業の企業内IT支援は、まいどフォーラムにご相談ください。


投稿

HOME > 投稿 > BtoB事業領域を持つ中小企業における顧客分析とマーケティングについて

BtoB事業領域を持つ中小企業における顧客分析とマーケティングについて

1.はじめに

ITCプロセスガイドラインでは、経営戦略策定フェーズにおいてその企業が事業を展開している現状の事業ドメインを考えるように説明されています。ここでは、中小企業を念頭に経営戦略策定に際して、顧客分析とマーケティングをどのように考えていくか考察したいと思います。

2.ITCプロセスガイドラインにおける顧客分析について

IT技術の進展は、従来では考えられなかったチャネルを存在させて、企業が直接的に不特定多数の消費者に接するBtoCビジネスへの新たな機会を開いたといえます。ITコーディネータへの教育でもそのような背景を踏まえているのでしょうか、おなじみのテキスト類の中にも、顧客について消費者市場を想定しつつ高尚な定義が記されているのを見うけます。そこではマクロ環境の分析、ミクロ環境の分析、市場の細分化など、正統派的な手法が論じられています。そのような顧客観やマーケティングの考え方はBtoC市場で覇を競う大企業の事業分析を行う場合には共通的な考え方でしょう。

しかし、現実には、昨今「スモールビジネス」と呼ばれ、中小企業であってもどこかエクセレントカンパニー的な色合いをすでに持つ優良企業は別にして、大多数の中小企業、それも製造業や建設業の範疇に属する企業の事業内容は大企業や他の中小企業向けの製造/建設下請けです。そのような企業は複数の企業を顧客に半製品製造や役務サービスを提供して事業を続けています。

ITコーディネータは中小の企業を顧客としており、したがってテキストで論じられているような場面に登場することはごく稀と思います。ですから、BtoBの事業ドメインで生きている中小企業を相手にコンサルティングを行うとき、上述の正統派的な手法は漠然としすぎていて、解を出すために遠回りをしているように感じます。ほとんどの中小企業が明日の資金繰りで苦労しており、経営戦略策定を考える場合においても比較的短期を見た対策、すぐに効果を生む施策が求められます。わたしたちが中小企業の経営者の方々(以下では、クライアントまたはクライアント企業と呼びます)を相手に実際に事業環境分析を行う場面で抽象的かつ漠とした顧客観を述べていては、本論に入る前にクライアントにさえぎられて、その時点で企業改革へのわたしたちの関与は終わってしまうことでしょう。

では、現実のITコーディネータの仕事として、中小企業の経営戦略策定において、どのように顧客の分析を進めることができるのでしょうか。

3.BtoB中小企業の顧客分析

企業向けの製造/建設下請けを生業としている中小企業の経営戦略策定において顧客の分析をどう実行するか、それはその企業の顧客となっている企業群の姿を具体的に書いたもので表すことです。最初は、概観できるものでよいのです、それをその時点での事実としてクライアントとITコーディネータとで認識を共有します。その次の段階としては、その概観を元により詳しい分析に進めて行きます。

では具体的な顧客像をどのように表すことができるでしょうか。筆者の場合は、その企業が現状で取引をしている顧客のリストを作成することにしています。先に述べたテキストにある正統派的な分析のように顧客分析を難しく考えすぎること、それは必要ないと思っています。抽象的な定義をしてそれに沿った顧客を描くことは無駄な作業になります。とにかく“AS IS”の顧客リストを作ります。それを表形式に表せば、それがそのまま現状の顧客分析概観の土台になります。

その次に、より詳細な分析はどのように進めますか。顧客との取引内容(当該企業へ提供した製品やサービスなど)、金額の時系列的な分析、顧客へ至るチャネル、発注を争奪するに際しての競争相手とその動き、などを元のデータへ付け加えます。非常に具体的かつ定量的な顧客データが出来上がります。

このような顧客リストを作成することは、当たり前のことに見えます。が、日常の事業活動に追われると、なかなかそこまで手を回せていなかった場合も多いです。実際、そのような状況を何度も経験しました。単純ですが、そのような顧客リストを作ることで経営戦略策定の方向が見えてきます。繰返しになりますが、シンプルで具体的なデータを作ることが肝要と思います。

4.戦略策定のための情報収集

次にデータを元に、マーケティングを行います。どう進めることができるでしょうか。

顧客リストの中で大口の顧客に絞って、それぞれの顧客がどのような事業方向に動こうとしているか、情報を集めます。将来の変化を含めた顧客ニーズを情報収集することです。大企業の事業のマーケティングと比較するなら狭い領域に見えますが、現実にはそれで十分であり、逆に遠巻きに網を広げる余裕も無いのです。

その次に、クライアントである企業がそれら顧客のニーズに応えて何を提供できうるかを考慮します。クライアントの作り出せるシーズと顧客のニーズとのマッチングを考えます。企業が提供できる製品や役務サービスには一定の限られた領域があります。当然ですが、顧客が望むからといってその企業が何でも顧客ニーズに追随して製品やサービスを生み出し提供できることはありえません。したがって、集める顧客情報にもフィルタをかけ、その企業の手中に生み出しうる製品やサービスとの領域の重なりを常時考えながら分析に含めるべき情報だけを集めなければならないはずです。企業シーズと顧客ニーズのマッチングを制約条件として情報を集めることが必要とされるわけです。

普通、顧客が明確に将来のニーズを伝えてくれることはありません。情報を集めるには顧客企業の動きなど関連する情報やマクロ的な市場動向を結びつけて考える情報収集側の能力が必要です。多数の状況証拠から帰結できる事象を推論する力といってもいいでしょう。

一方で、自社の実力と潜在能力、自社の技術開発投資の動きも、シーズ側の情報として把握しておかなければなりません。顧客分析とマーケティングは、顧客ニーズと自社シーズのマッチングの条件を外しては意味が無いからです。

5.まとめ

このような単純な顧客リスト作成とそれに基づく情報収集が有用なのはなぜでしょうか。それは、クライアント企業実現しやすい事業戦略を考えていく出発点となるからです、その企業はそれまでも営々とそのドメインで事業を続けてきたわけです。それが突然事業ドメインを変えて、飛び地に飛んでそこで発展を始めることには非常に困難があるはずです。換言すると、それは成功確率の低い事業戦略になるはずです。

ITコーディネータのための教育資料は有識者の方々がその知識を注がれて作られています。そこに様々な理論が紹介されています。しかしながら、現実のコンサルティングの場面もしくは企業内のITコーディネータがコンサルタント的に経営戦略を考える場面では、より具体的で定量的な現状把握、具体的に相手を想定したマーケティングを行うように心がける必要があると感じています。

ITコーディネータ  松下 悟

このページの上へ



『経営に活かせるIT』と『ITを活かした経営』の橋渡しは‥‥まいどフォーラム