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ITコーディネータとなぜなぜ分析

1. はじめに

最近、「なぜなぜ分析」という言葉を時々目にされる方が多くおられるかもしれません。ITコーディネータ協会が認定する定期刊行物の一誌においても、「なぜなぜ分析」についてルール化や体系化に熱心に取り組まれている方が自らその解説などを寄稿しておられます。筆者はその方から直接お話をお聞きし、さらに別に本題の教育を行う講座を受講する機会にも恵まれました。それら聞いたこと、学んだことを元に、ITコーディネータにとって「なぜなぜ分析」とはどういうものか、偏った見方にもなるかもしれませんが、評価を論じてみたいと思います。
あらかじめお断りをいたしますが、「なぜなぜ分析」のHow Toをここでは極力触れないように配慮しています。それは、これを主唱されている方の領分であり、一受講生の述べるべき事ではないからです。また、「なぜなぜ分析」の内容について、著作物その他で扱われている手法の問題や論理の誤りについて、種々WEBサイトにいろいろなご意見が出されています。それらに対するコメントを本稿で述べる意図もありません。
「なぜなぜ分析」に関して、ここでは下記参考文献を念頭に置いた議論といたします。
(参考文献)「なぜなぜ分析10則/真の論理力を鍛える」小倉仁志 著、株式会社日科技連出版社 刊

2.「なぜなぜ分析」概観

「なぜなぜ分析」とは何か。
筆者の認識は、一般的な言い方になりますが、事象の因果関係を可視化する表記の方式の取り決め、加えて、表記を作っていく際のルール(コツ)を提示したものです。表記の形式の面では、例えばQC活動の7つ道具の一つと同等の表記方式です。近そうなものを挙げると「特性要因図」的な可視化手段です。7つ道具と比べて「なぜなぜ分析」の特徴は、特有の表記を作成していく際に、さらに具体的、実践的な作成のチェック則が加えられていることです。
例えば、特性要因図を作るにしてもうまい人とそうでない人がいます。特性要因図の活用に慣れていない人が作図したものは、一見同様のフィッシュボーンでも内容が論理的に発散していて、個々の論理を検証すると特性要因の整理になっていない図が作られることがありがちです。一方、作りなれている人であれば、暗黙知として特性要因図を作る際のコツを知っていて、他者が見てわかりやすく納得の行く特性要因図にまとめ上げることができます。
「なぜなぜ分析」は、この表記を作るときのルール、うまく作るコツ、を解説しているのがQC7つ道具の説明よりもやや親切です。ただ、使いこなすために習熟が求められる点ではQC7つ道具と差異はありません。コツと書いていますが、文献の著者が自ら言われているように、コツそのものは「言われてみれば当たり前」のことばかりです。と同時に、当たり前のことが意外とできていなくて、簡単に解決できているはずのことが解決できないでいるのも日常目にしている事柄です。コツは複数ありますが、それらは個別には、例えば「特性要因図をうまく作る方法」の教育材料にもなります。一例を挙げますと、「なぜなぜ分析」で勧められている「逆読み」は特性要因図の論理性を検証するのに使用することができます。
もともと日本語は非常にあいまいな表現で論理を誤魔化しやすく、自分でも誤魔化されやすい言葉と思っていますが、その欠点を補う視点を「なぜなぜ分析」は「モノゴトを見極めて、絞り込む」といったルールで気付かせてくれます。

3. いつ使うか

分析のためのツールと筆者は捉えています。ですから、事業環境分析のツールであり、事業改革テーマを見つけるツールです。さらに、何かの業務改革や方針転換を導入した後でうまく改革・転換が進まないときに、「なぜうまくいかないか」を考えるツールにもなります。
例えば、「昨年度、○○の売上が××%下がった。」という事象に対してその要因を掘り下げつつ可視化し、何を改善の対象とするかコンセンサスを作って目標共有するツールに使うことができます。複数の関係者、当事者、コンサルタントがそれぞれ独自の定義で同じ用語を使って議論して、議論がかみ合わない、発散することがありますが、そのような検討過程で生じる問題を少なくする効果があります。ただし、その場合には参加者すべてが「なぜなぜ分析」のルールを知っておく必要は、もちろんあります。
ベテランのITコーディネータが多分にそのスキル(暗黙知)でもって回避しているであろう障害を、経験の浅いITコーディネータは「なぜなぜ分析」を利用して回避できるかもしれません。
また、「なぜなぜ分析」は表記の方式でもあります。上記ステージで事象をクライアントへ説明する場合に活用できます。文章で説明するよりも、経営者にはわかりよいです。

4. どんな注意が必要か

この手法を使えば、初心者でも部外者でも、だれでもうまく問題を解決できるのか。
そうではありません。使いこなす人に、ある種のストーリー作りの能力が必要です。誤解を恐れずに言いますと、事象に対して答えのある程度見えている人が自分のストーリーをわかりやすく説明するために使えるツールです。かつ、そのストーリーが間違っていないことをかなり客観的に自己検証するツールであり、検討内容の漏れを「ある程度」は防げるツール(完全には防げません)であり、また他の人に見てもらって論理の誤りをチェックしてもらえるツールでもあります。
ツールの限界は、一つの「なぜ」に対して書く一つひとつ表記の表現にはいろいろな書き様があるというところから来ます。元の事象が一つであっても、それに対して作成できる「なぜなぜ分析」は極論すると無限にあります。さらに、視点によって書き様は違ってきます。もともと日本語は非常にあいまいです。必然、ストーリーを念頭に置きつつ、いくつかの考えられる最終表記(最右欄に来る「なぜ」)をイメージしながらチャートを作って行きます。
QC7つ道具をうまく使いこなす人がおられてよい成果を上げられるのと同じように、「なぜなぜ分析」もうまく使いこなせる人がおられれば、いいツールになります。一つの教育のテーマとして出来上がっていて、教育機会を持たせることで「うまく使いこなせる人」を養成できます。これは、「なぜなぜ分析」のメリットです。QC7つ道具の使い方を教えるよりは、短い時間でツールに熟達できるのではないでしょうか。

5. まとめ

これまで書いてきましたように、筆者は「なぜなぜ分析」に好意的な評価を持っています。具体例を挙げて、『あの「なぜなぜ分析」は間違っている。』といった指摘が一部に見られますが、本当に論理的におかしい場合を除いて、多くの「なぜなぜ分析」は「正しい」です。観点を変えると途中の論理展開、「なぜ」の挙げ方は変わります。「間違い」かどうかの議論はほとんど不毛に思えます。何のために「なぜなぜ分析」を試みるのか、それは次にどんな対策を打ち出すのか、その答えを出し、方向や方針に関するコンセンサスを形成するために出すわけです。ですから、大切なことは、有効な「なぜなぜ分析」であったかどうかです。それを当事者が判断すればいいと考えます。
このようにITコーディネータが、自分の業務展開スキル向上のツールとして、「なぜなぜ分析」をマスターすることは有効であると考えています。これにまだ接しておられない方には、一度掘り下げて見られるようお勧めしたいと思います。
                                          ITコーディネータ 松下 悟

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