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セミナ・講演等における視覚的効果について

■はじめに

 私の業務上から、種々の技術に関し社内でセミナを行うことが多い。その一方、社外のセミナ・講演等を聞きに行く機会も多い。多くの場合、講師・講演者の方々はパワーポイントを用いてスクリーンに図や表を映し出し、指示棒で指しながら説明を行う。そのときに感じることは、話し方もさることながら、視覚的効果というものをあまりにも軽んじている方々が多いのではないか、ということである。

 私の経験を踏まえて、セミナ・講演等における視覚的効果とはどのようにあるべきか、私見を述べたいと思う。

■視覚的効果と聴覚的効果

 人間は、外界からの情報を五感のうち視覚から70%,音声から20%,残り三感から10%得ている、と言われている。

 聴覚的効果が劣っている(つまり話し方が下手)という例も時おり見られるが、これはまた別の機会に論じたい。

 講演の内容が立派、すなわち音声からの情報が非常に優れていたとしても、視覚に単調で魅力の無いものを見せられ続けると、時間がたつにつれて人間はだんだんと感覚が鈍磨してきて、音声情報に対しても感受性が鈍くなってくる。雑念がわいて話が耳に入らなくなる。やがて眠くなる。……と、このような経過をたどることが多いように思う。

 セミナや講演は聴覚的効果が主導になる(だから「話を聞きに行く」という)が、視覚的効果を軽視してはいけないし、常に視覚情報と聴覚情報が有機的につながっているべきではないだろうか。

■悪い視覚的効果の例

 現在では、セミナ・講演等はほとんどがパワーポイントを用いて行われる。しかし、以下のような例があまりにも多い。

 ・スクリーンに文章ばかりがずらずら並ぶ。その文章も長い。文字が小さい。

 ・ひとつのスライドに、図,表,説明文などをあまりにもごちゃごちゃ詰め込み過ぎる。

 ・表が細かすぎ、数字も文字も読めない。

 ・強調するべきポイントを色分け等するべきなのに、していない。

 ・何かの資料からスキャナで読み取った図ばかり。それもかすれている。

 ・動き,流れを表現している図であるのに、アニメーションの機能を使用していない。

 最後のアニメーション機能については異論もある。あまりに使いすぎるとかえってうるさい、あざとい、という見方である。これについては、パワーポイント資料作成者のセンスの問題と言うしかないだろう。

 私が見た最悪の例は、某大学教授の以下のようなセミナである。

 ・レジェメの最初のページ(文字と数式だけ)をスクリーンに投影したまま、全然表示を変えずに(パソコンに触れもせずに)話だけが進んでいく。スクリーンの表示と話の内容はまったく関係ないものになっているのに、そのまま。当然暗いから、講師の顔が見えない。要点に来るとホワイトボードに書く。しかし暗いから読めない。

 いやまったく、まことに不可思議なセミナだった。

■私が工夫する点

 私は2007年7月に、所属する21世紀ITCクラブのセミナにて、暗号通信の理論に関してセミナ講師を行わせて頂いた。そのときの経験から、私の工夫を述べてみる。

 ・文章だけのスライドは少なくし、できる限り図,表,写真,イラストなどを多用する。

 ・文章だけの場合は、大きな太い文字で、短いセンテンスで書く。強調部分は色分け,字体を変える,動きをつけるなどで受講者の注意を引く。

 ・ひとつのスライドにはワンテーマのみ。ごちゃごちゃ詰め込まない。

 ここまでは当たり前の工夫である。さらに、以下を多用した。

 ・動き,流れを表現している図には積極的にアニメーションの機能を使用し、動く,伝わる,変化する,拡大する,消滅する,等の事柄を視覚的に表現し、イメージで表現することを心がける。

 暗号通信の話であるので、流れや変化に関係する説明が自然と多くなる。

 元のメッセージが暗号文に変化する。→暗号文が送信される。→暗号文を復号(解読)する。→使用した暗号鍵は消滅する。

 といった流れを、動きで表現した。また、フォトン(光子)が光ファイバの中を通っていく。エレクトロン(電子)が金属ケーブルの中を自由に動き回る。というような事柄も、工夫してアニメーションで表現した。

 このような私の手法には、批判もある。たとえば、社内で「自然保護」をテーマにしたセミナを行った時に、花畑の写真を映しておいてそこに10秒ごとに蝶を飛ばす(もちろんアニメーションで)、という手を使ったことがある。「おや? 何か飛んでますね?」という台詞で笑いを誘い、それなりに好評だったのだが、これはさすがに後で「あざとい」という批判も浴びた。

 しかし、センスは磨かなければならないにせよ、このようにアニメーション機能を積極的に工夫を加えて使用することは、間違っていないと思う。2時間程度のセミナでは、「知識」を伝えるよりも「イメージ」を伝え、脳の中に焼き付けてもらうことを重視するべきではないだろうか。

■最後に

 私がここで述べたかったのは、「パワーポイントを使いこなそう」ということではない。「視覚効果を大切にしよう」ということである。

 だから私は、パワーポイントを使いこなせない人であるならば、逆説的であるがパワーポイントなんか使うな、と言いたい。

 教室や講堂は明るくし、講演者は正面に立ち、自分の表情,身振り手振りで聴衆を引き付けて、視覚効果を与えるべきではないだろうか。つまらないスライドを薄暗い中で見せられ続けるよりも、その方がよほど聴衆の脳の中に印象が強く残るのではないだろうか。

 どうしても図や表が必要な場合は、その時だけ補助的に少し使用すればよい。

 パワーポイントなどない時代にだって、立派なセミナ・講演はあったのだ、という原点を忘れないようにしたい、と思う。

         杉山 雅俊

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