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上流工程へのIPAドキュメント活用

独立行政法人情報処理推進機構(IPA)は、情報処理技術者試験等を実施している外郭団体ですが、ソフトウェアの開発プロセスに関しても、継続的に提言を行っています。
COBIT、BABOK、ITILといった洋物のツールを使うのもいいですが、IPAが保有している無償の各種ツールも結構充実しており、使わないと損です。

◆機能要件の合意形成ガイド
IPAソフトウェア・エンジニアリング・センターが力を入れている活動の一つに、発注者と受注者の合意形成に関する方法論があります。超上流工程や要件定義フェーズにおいては、発注する側の企業や団体と、受注する側の意識がズレることが起こりがちです。

そこでIPAでは「発注者ビューガイドライン」を2008年に無償公開し、画面、システム振舞い、データモデルの3つの技術領域に関して、200近いコツやポイントを整理しました。

システムエンジニアという人種は、発注者の想いを正しく受け止めるよりも、うつくしいシステムアーキテクチャや、プログラム構成等に惹かれがちで、「美しいけど発注者には意味不明な設計書」作りに傾倒してしまいがちです。そこで、発注者と開発者が同じシステム像を共有し、行き違いなく合意形成を行うためのコツやポイントをまとめあげているものです。2010年にはこれが更に拡張・充実したものになり、その名もズバリ「機能要件の合意形成ガイド」として新たに生まれ変わりました。コツも100程増えています。

とはいっても、内容を読み下すにはそれなりのITの知識が必要ですし、ボリュームも半端無く多いですし、発注者がここで表現された成果物を机の上に積み上げられたとしても大半は読みこなせないだろうと思います。

中小企業がシステムを発注する際には、「機能要件の合意形成ガイド」を印刷して手元に持って置き、システム会社が見積書を持って来たときに、その明細や納品予定物のリストを確認し、「ここに書いてある外部設計書というのは、このガイドの中のどれが書いてありますか?」というふうに、質問をすればよいと思います。

ただ、合意形成ガイドに書いてある全ての資料を作らせるとなると、システム開発費の大半が文書作成代になってしまう可能性もあるので、システムの性質や規模等によってどの資料を作らせるのかをITコーディネータと相談するのが良い進め方だと考えます。

◆非機能要求グレード

そもそも機能要求とは、発注者がシステムにどのような機能を必要としているかを意思表現するものですが、非機能要求というのは「ソフトなんだからあたりまえでしょ」と、発注者が当然すぎるぐらいに暗黙に要求している事柄を指します。

でも、システムは万能ではないので、実際にはいろいろ出来ない事が起こりえるものです。そこで「機能」ではないけど、その「機能」を達成するのに必要な性能や、制約事項を意思表現することが、非機能要求となります。

たとえば、ネットショップシステムであれば「洋服の色が選べること」というのは機能要求、ですが「カード決済は10 秒以内に完了すること」や「データベースは二重化していること」は、非機能要求です。

非機能要求は、設計次第でシステム開発コストが大きく上下します。先の例では、カード決済を0.1 秒以内に完了するのか、60秒以内に完了するのかで、システムコストや運用コストは何十倍の差が出てくるはずです。したがって、決済速度は早ければ早いに越したことはないけれど、この程度なら許容できるという閾値を取り決めてゆく必要があります。

IPAには「非機能要求グレード」という資料があり、どの程度のレベルを許容するのかを整理して見ることができます。

◆SPEAK-IPA
こちらは、システム開発会社に読んでもらいたい資料です。

ソフトウェア開発は、結局は労働集約によって行われるため、開発手順というのは、会社によってバラバラです。しかも建築のように設計図書を誰かが精査して建築確認を行ったりしないので、しっかりやろうとするとコストがかさみ納期が長くなるし、日曜大工の延長で家を建てるような感覚で企業のシステム開発を請け負うような会社も無いとは言えません。

IPAでは、ソフトウェア会社やシステム開発会社の作業プロセスの現状を客観的に評価し弱点を強化するためのツールを公開しています。その中のひとつが、「SPEAK-IPA」という
ツール(ドキュメント)です。

かなりヘビー級の小難しいドキュメントですが、この中の第4部「軽量アセスメントモデル」を使って、簡単に診断する事が可能です。

発注者の視点に立てば、ここに書いてあることをシステム会社に質問してみたり、確認することにより、その会社がどの程度しっかりしているのか、安心してこの先任せてゆけるのかを判断する材料になります。

いずれも、IPAのSEC(ソフトウェア・エンジニアリング)のページから、ユーザー登録(無料)すると見ることができるようになります。

ITコーディネータ/太田垣博嗣

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