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業務改革と文書化における、脱「パーキンソンの法則」考察

はじめに 

パーキンソンの法則によると、「仕事の量は、完成のために与えられた時間をすべて満たすまで膨張する」傾向があり、イギリス帝国が縮小していたにもかかわらず殖民地省の職員数は増加していたとパーキンソンは指摘している。

パーキンソンによれば、このような結果は、 (1)役人はライバルではなく部下が増えることを望む、(2) 役人は相互に仕事を作りあう、という2つの要因によってもたらされる。また、パーキンソンは、官僚制内部の総職員数は、なすべき仕事の量の増減に関係なく、毎年5~7%増加したとも指摘している。(Wikipediaより)

 特に、役人は相互に仕事を作りあう、については同じことは企業でもいえるわけで、スタッフが総力を挙げて調査分析したとしても、経営判断は必ずしも彼らの見解どおりに下されず、判断時点の経営者の考えだけでなく、外部要因、たとえば政権交代や自然災害といった外部要因でもあっさり覆ることもある。このとき、スタッフの作業は植民地省に例えられてしまうのだ。植民地省とて私利私欲で自己増殖してしまったわけではなかろう。

ただ、彼らの意図と違った方向にすすんだ史実だけを見た後世のものからは、「法則」の名で揶揄されてしまうのだから恐ろしい。

序論

たとえば業務改革における可視化は膨大な文書作成をともなうが、現場は常に動いており、文書化作業も実際はエンドレスである。文書化が追い付かない程のスピードで経営判断をしなければならない経営者からすると、出来上がった文書は既に過去のものであり、ステークホルダの興味も決してそこがすべてではない。

システム再構築の局面でも同様である。ある時点のユーザのシステム化ニーズを網羅的に収集しても、そのニーズの量的カバレッジが高く、かつ長期的にも有効でなければ実装しても将来陳腐化してしまう。例えば今と5年後のビジネス規模(たとえば売上総利益)、省力化や収益貢献の度合いまでユーザに触れてもらい、費用との兼ね合いで判断するという前提でヒアリングすると、自ずとニーズは厳選されて無駄な情報の蓄積は減るはずだ。

 

本論

最近SIベンダ勤務で開発プロジェクトの上流工程を担当する友人からこのような話を聞いた。クライアントの予算の都合で、開発プロジェクト規模が縮小された、と。リーマンショック以降よくあることだ。何せ100年に一度の不況なのだから。

あれだけの準備作業をしたのに。現場に入って、文書化も手伝ったのに。確かに時勢としては、内部統制だ、業務の標準化だ、と文書化のニーズがあり、この点においてSIベンダのノウハウは有効で、また新たなマーケットでもある。

友人は、上流工程からクライアントに深く関与することで、その後の開発から運用工程までの自社へのフルアウトソーシングに期待を膨らませていたところだったのだ。

流行に敏感なクライアントもプロジェクト着手時点では文書化の必要性を理解し、現場総動員でプロジェクトに参画したようだが、いざシステム実装検討の場面では、現実とのGAPを再認識させられた。膨大な文書をもとに、内部統制要件も踏まえて実装しようとすると想定を超える工数になるし、加えてこの景気後退局面。必然的にクライアント経営陣は予算縮小を切り出した。現場主義で前線に入った友人は、クライアントユーザから「これまで協力してあげたのにあれはなんだったのか」と失望されたという。友人には全く非はないが、肝心の開発案件はとれず、社内の要員をダブつかせて対応に苦慮しているようで、まさに踏んだり蹴ったりである。

 大規模プロジェクトではAS ISの把握、TO BEの設定、業務要件定義、を経てシステム要件定義着手という流れが一般的である。各工程の専門化や職務分離、個別外注によって、こうした上流工程の手法や要員が下流工程と切り離され、プロジェクトの中であらかじめ個々の責任を担うようになると、彼らは持ち場の中で最大限の成果を発揮すべく時間をかけてあらゆる仮説をたてては検証し、そしてともすれば実現不可能で没交渉的なほど大量の宿題を下流に流してしまうリスクを考慮する必要がある。

このとき、実装可否を判断するのは結局コストと納期であり、序論で触れたように、あらかじめ実装優先順位判定材料として、たとえば個々のニーズを一定期間内の金銭的価値に置き換える等の手段が有効であろう。プロジェクトの構成が複雑であればあるほど明快な基準が望ましい。

結論

友人の例はひとごとではない。同じことは、経営とITの間に立つITコーディネータの立場でも周囲で十分に起こりうる話である。

複数の工程を個別のチームが連携するプロジェクトの遂行をマネージする場合、個々のチームの成果物が、結果的にパーキンソンの法則をたどっている、と揶揄されることのないように留意したいものである。

ありきたりのことであるが、そのためには日頃からの情報収集と、案件のオーナーである経営者との十分なコミュニケーションが肝要であり、本来ITコーディネータに求められているものではないだろうか。

以上

ITコーディネータ 久保 滋(0058182006C)

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