「IT経営ロードマップ」が作成された背景について前編で言及した。このロードマップは、中小企業の現場目線というよりも、わが国がIT活用によって国際競争力を獲得するためにというグローバルな視点に立って、大所高所から検討されているものである。そのことはこのロードマップを作成した協議会の構成員が、大企業で占められていることからも明らかである。従って、このロードマップを中小企業経営に活用するためには、ITCによる適切な「翻訳」が必要である、中小企業経営者の取り得るアクションにまでブレイクダウンするスキルが重要だと思われる。以下にその「翻訳」の具体例を示す。
ロードマップは「ITガバナンス」の項で、「経営とITの好循環に入り込めない企業をみると、以下のような共通の特徴が見られる」として、「経営者自身のIT投資に対する考え方が不明確」なのだというデータを示している。これはもう中小企業では「所与の前提」と言ってもいいくらいであって、その問題自体を解決しようとすることが適切なのかということに疑問を持たなければならない。IT投資に対する経営層の声として、「IT投資額の妥当性が評価できない」「投資に対する効果が得られているのか分からない」「従来のように業務を機械化するのではなく、IT活用を評価しなければならなくなってきているので、評価が難しくなってきている」「システムが使われているかどうか測ることができるが、効果は難しい」といったものが挙げられているが、そのような疑問を解決し、本当に経営者に納得させる必要があるのかどうか、である。
ロードマップは、このような問題への対応方向として、「経営層が意思決定するための判断材料を、情報システム部門が『的確に説明すること』が必要である。そのためには、客観的な指標を設け、測定することが欠かせない」と述べている。ここに中小企業におけるITCの果たすべき役割のヒントがあると考えることはできないだろうか。すなわち、中小零細の多くは社内に情報システム部門を持たない。せいぜい総務部門や経理部門の中に、ITが得意だと見なされる1名ないし2名がいれば幸運という程度である。すなわち、「経営者の意思決定のために情報部門が何かする」という順序自体がすでに中小企業的でないわけである。だからこそ、ITCが「社外CIO」として機能する余地が大きいと言えるのである。ITCと経営者のあいだに、本質的なレベルで一定の信頼関係があれば、経営者はIT投資の本質的な意義について理解しておく必要などないのではないかと考えられる。
すなわちロードマップの中で「情報システム部門の役割」として述べられている箇所が、そのままITCの役割というふうに解釈できるわけである。でなければ、ITCの存在意義はどこにあるのであろう。大規模企業目線のロードマップには、「CIOが不在で、情報システム部門を設置できない規模の中小零細におけるITガバナンス」は検討されておらず、ITCの存在意義や活用についても触れられていない。かなりの中小ナイズが必要と感じる所以である。
ロードマップにおける「人材育成」の定義は、「IT経営の推進に向けて必要となる人材を育成・確保すると同時に、CIO配下に、IT経営推進の母体となる組織を構築することである」とある。その具体的なプロセスは次のとおりである。1.「自社のIT経営の成熟度に応じて、必要となる高度人材を特定する」、2.「必要な高度人材を確保するために、社内(情報子会社を含む)の人材に対して、育成の仕組みを構築する。また、現場と情報システム部門間の異動等を活性化させる」、3.「社内で確保できない人材については、外部から調達することを検討する」、4.「CIO配下に、IT経営推進組織を構築し、確保した高度人材を適宜アサインする」とある。このままの文言では中小企業ではまったく機能しないことは明白である。当該プロセスの翻訳が「IT経営をどう実施するか」の解釈について最も肝要な部分となろう。
結論から述べると、中小企業の「IT経営推進組織」としては、有能なITCが社外CIOとなり、経営者と社内のIT担当を、ITCの「配下にアサインする」のが最適であると考える。中小企業にはCIOという役職名自体が馴染まないが、それはさておき、経営者自身がCIOの役割を担うケースであれ、社員のうちで適任が見つかるケースであれ、所詮素人の域を出ない。相応の経験を積んだITCが強力なリーダーシップを発揮していくというのが、ITガバナンスにおける「勝ちパターン」である。でなければ、中小企業にとってITCの存在意義はない。
以上の結論に説得力が乏しいのは、ITCが中小企業の社外CIOとなり、IT経営推進組織を形成し、IT経営を成功させ、企業価値の最大化に貢献した事例がまだまだ少ないためである。当のITC自身が、ITCにそのような役割があると気づいていないとも言える。ITC制度発足から10年を経過した今、「IT経営を実現するプロフェッショナル」としての座標軸がどこにあるのか、再確認したいものである。
by ITコーディネータ:永田ショウ造@まいどフォーラム(2013,03,01)