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「IT経営ロードマップ」を活用するために(1)

ITコーディネータ(以後、ITCと略す)制度が発足して10年以上が経過し、自分自身のITCとしての活動も10年近い。このあたりで一度、基本に立ち返り、ITCとして本当に的確な助言、指導を行うことができているか。「IT経営」を語れるITCとなっているか、検証してみたい。
そのためにはまず、今さらながら「IT経営とは何か」というITC活動の原点に返る必要がある。「IT経営」という概念がいつ生まれたものなのかわからないが、そもそも現在IT経営はどういう意味で使われているのか、「IT経営とは何か」の定義から見てみよう。
「IT投資本来の効果を享受するためには、目的なく、単に現業をIT化するだけでは、不十分であり、自社のビジネスモデルを再確認したうえで、経営の視点を得ながら、業務とITとの橋渡しを行っていくことが重要である。このような、経営・業務・ITの融合による企業価値の最大化を目指すことを『IT経営』と定義する」とある。こう定義しているのは経済産業省である。「IT経営」とは経済産業省のこしらえたコンセプトであり、造語であるから、経済産業省がそう定義するなら、やはりそれが正しい定義であり、そこから検証を始めるべきであろう。
そのIT経営を企業に根づかせるための方策として、まとめられたのが「IT経営ロードマップ」であり、平成20年6月に初版、平成22年3月に改訂版が発表されている。IT経営のコンセプトを作り、IT経営を定義した経済産業省が、「IT経営はこのように実施しなさい」と教えてくれているものであるから、ITCはこのロードマップについて考察を重ねる必要があろう。
「IT経営ロードマップ」を作成したのは「IT経営協議会」となっている。これは平成20年6月20日、ITによる日本の産業競争力の強化を目的に、会員企業27社と大学教授などの専門家を集め、経済産業省がスタートさせたものである。会員企業を50音順で紹介すると、アサヒビール、イオン、荏原エージェンシー、カシオ計算機、カブドットコム証券、カルビー、関西電力、コクヨ、JFEスチール、ジェイティビー、情報システム総研、セブン&アイ・ホールディングス、ソニー生命保険、大成建設、東京海上日動火災保険、東洋インキ製造、トヨタ自動車、日興シティグループ証券、日産自動車、日本放送協会、ネットイヤーグループ、東日本旅客鉄道、ファーストリテイリング、松下電器産業、リコー、りそなホールディングス、ローソン。──見ておわかりのとおり、経営とITの融合、ITを生かした経営という点で、エリート中のエリート、一流企業の集まりである。このような優等生の集まりからなる協議会によって描かれたロードマップであるから、果たして中小企業にとっても参考になるのか否かとなると、これはかなり疑問である。国際競争力を高める目的で国家的マクロ視野で描かれたものを、そのままミクロの世界にもちこむことは不見識と言わざるを得ない。
だからこそ、中小企業の経営現場でこれを活用としようとするならば、ITCが本質を理解し、噛み砕き、言葉を置き換え、中小ナイズすることが大切なのである。理想的には、このようなロードマップが、はじめから中小零細への適用を念頭に置いて編纂されたものであればよかったのだが、国家にも国家の事情というものがあるのであろう。
例えば肝心の「IT経営をどう実施するか」というテーマは、ロードマップ第3章で語べられているが、「IT経営を実現していくためには、並行して、マネジメント上の課題を解決していくことも不可欠である。このため、IT経営の成熟度に関わらず解決すべきテーマとして、『ガバナンス』『人材・組織育成』『IT投資』をマネジメント上対応すべき観点として位置付けた」とある。「高度人材の不足」という経営課題は、字面だけを見ると大企業も中小も共通しているように見えるが、その中味はまったくちがうはずである。対応策として挙げられた「高度人材育成の推進」は、「CIO人材」と「アーキテクト人材」に分けて論じられている。たとえば社員数が100名以下であるような規模の中小企業に、この本質をどう伝えるか、用語解説に終始することなく、趣旨をどう翻訳するか。結局のところ中小企業経営者はどんなアクションを起こせばよのか。──それがこのたびの考察の中心テーマであり、この10年間の中心テーマである。
「ITガバナンスを充実させましょう」というような言い方では中小企業には何も通じない。通じないどころか「あなたの言葉は難しすぎて実行できない」と言われ、仕事がもらえなくなってしまうかもしれない。よしんば単語の意味は通じたとしても、行動選択に結びつかなければ0点なのである。したがって適切な「翻訳」の具体例としては、「社員の中からITが得意そうなのを2~3人選んでITパスポートの資格を取らせてください」とか、「会社が推奨するホームページ作成ソフトを社員が自分で買いたいと言ったら半額補助してやる制度を作りましょう」とか、その程度のアドバイスが妥当であろう。
このように、「IT経営ロードマップ」を中小企業で活用するには、ITCの豊富な経験に基づく「現場感覚」が求められる。後編ではさらに、その具体例を見ていく。

by ITコーディネータ:永田ショウ造@まいどフォーラム(2013,03,01)

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